読むだけでテニスが上手くなる本 〜児玉光雄氏の世界観に釘付け〜
これまでに、相当たくさんのテニスの技術書を読んできたことは、間違いない。
この本も、少しでも上手くなりたいないぁ、という気持ちで読み始めたのだけれども、しかし、テニスの技術についての情報量は少ない。
だから期待はずれか?というと、とんでもない。テニスの技術だけに留まらず、スポーツ全般における心構え、ひいては日常を通してハイパフォーマンスを引き出すためのメンタルスキルにまで話が及んで、まるで人生の指南書なのだ。
これは、読んでみる価値炸裂、大満足必至。早速紹介しよう。
学ぶことを止めればもっとテニスは上手くなる?
初っ端から、無茶苦茶である。テニスが上手くなりたいと思って読んでいるのに、「学ぶことを止めろ」とは何を言い出すのか?
でも、読み進めればすぐ分かる。あえて新しい技術を学ぶよりも、現在保有しているものを最大限に発揮するという発想を持つべき、という意味だ。
この考え方は、一瞬にして腑に落ちた。超初心者でない限り、例えばスイングのフォームはほぼ固まっている。自分がトッププレーヤーではないという事実が厳然とある場合、その固まったフォームを矯正すれば、一気に上達できるような錯覚に陥る。しかし、一度出来上がった陶器の形を変えることが不可能なように、そんなことを試みること自体が無謀なのだ。目に見えている。
大切なのは、新しい技術を習得すれば上達するという幻想から逃れること。練習すればするほど上達するという思いは、神話に過ぎないことに気付くこと。
ブレずに磨き続けて、贅肉をそぎ落とし、再現性を高めること。
大丈夫。過去に一度でもナイスショットを打ったなら、その時の僕のスイングは〝完璧〟なのだ。ジョコビッチは完璧ショットを打つ確率が高い。僕は低い。それだけの違いだ。ジョコビッチのスイングそのものだけを真似ても仕方ない。自分の完璧ショットの再現性を高めるために、飽き飽きするほど同じ練習を積み重ねるべきなのだ。ブレずに…。
先にミスった方の負け
テニスという競技の特徴のひとつに、凡ミスが多い、ということが挙げられる。テニスはミスのゲームなのだ。ポイントを決める最後のショットは、目の覚めるエースである場合もあるが、実は圧倒的にミスの方が多い。
つまり、ミスらなければ勝手に相手が先にミスってくれるので、必然的に自分の方が勝利に近づく。
だから、ボールゲームには付きものの、「一球入魂」が意味を持つ。
松岡修造氏が、ウィンブルドンのコートで思わず叫んだことで有名な、「この一球は絶対無二の一球なり」というやつである。
意識的に集中力をコントロールする。環境に翻弄されるのではなく、マインドを自らのコントロール下に置くことのトレーニングは、例えばどんな仕事の場面にでも、大きく役立つことに違いない。
メンタルスキルの重要性
メンタルがどれだけパフォーマンスに影響するかは、スポーツの世界だけで注目されているわけではない。日常においてもそれを実感することは多い。
自分の集中力はどの程度のレベルのあるのか?やる気を掻き立てられるシチュエーションは?などの自己分析は特に重要だろう。
そして、それ以上に自己暗示とイメージトレーニングの大切さは、肝に銘じておく必要がある。
僕が初めてテニスをしてから25年は経つが、その間自身を「素晴らしいプレーヤーだ」と感じたことは一度もない。スクールにせっせと通ったこともあったが、大抵は「初級」や「中級」クラスに入れられる。大体こんなモンだ、といつも思わされていると言うか、思っている。そして、その自分で決めた〝程度〟を忠実に演じている。過去の延長線上でしか自分を捉えられない思考習慣が、進歩を阻んでいる。自分で自分を「枠」に閉じ込めて、そこから出られなくしている。
等身大のプレーヤーを目指すのを止めよう。ぶっ飛んだ目標を持つことは、恥ずかしいことでもなんでもない。自分を煽る手法としては、至極真っ当だ。
テッド・ターナーは、「生きている間に達成できるゴールは設定するな」という言葉を残したらしい。実現不可能と思えるほどの壮大なゴールに向かって努力し、それに成りきり演じれば良い。オーバー50のおじさんプレーヤーが、フェデラーを目指したって良いと言うか、目指すべきなのだ。「私は日々確実に進歩している」「私は高い目標に向かって全力を尽くしている」「私はいつでも自信満々だ」等々の自己暗示メッセージが、確実に僕の潜在能力の扉を押し開いてくれるはずなのだ。
イメージトレーニングは練習と同じ効果がある
驚くべき実験結果が紹介されている。
アレックス・モリソンというゴルフのレッスンプロが、全くのビギナーの少年に、イメージトレーニングの手法だけを伝授して、実行させたらしい。
正しいプロのスイングの画像を見せ、そのポイントを解説し、自分がそれを忠実に再現しているシーンをイメージさせる。5分間映像を見て、5分間イメージさせるというのを、3週間継続させた後の初ラウンドで、その少年はなんと最初のハーフをパープレーでまわったという。
理論的に解説すると、下手な技術を体が覚えてしまう前に、正しい動きを脳にプログラミングして植え付けてしまうということになる。人間の脳の底知れぬパワーを示すエピソードだ。
僕はもう少年ではないが、体が覚えてしまった拙いフォームを、覆すほどの破壊力が潜んでいることを期待している。どこからでも人間は変われるのだ。大げさだが、人生は何度でもやり直せるのだ。
心が体を動かしている
この本の著者の児玉光雄氏は、70年代にプレーヤーとしても名を馳せた方だが、失礼ながら僕はよく存じ上げない。しかし、スポーツ心理学者として数々の研究成果を発表され、イチローや石川遼のモチベーションについてなど、多くの著書を出されている先生としての面なら、よく存じ上げている。
テニスの技術を、解説を読んで「言語的」にインプットするよりも、僕の場合、画像のみでイメージしたり、プレーに臨むにあたっての心構え、あり方を整える方に重きをおく方法が、しっくりくるように感じる。
自分でも忘れていたが、こういった切り口の本は昔から時々読んでいた気がする。「心理学」といえば、まずは「ユング」とか「フロイト」とかが登場して、いきなり訳が分からん状態になったが、スポーツと絡めるとスッと受け入れやすかった。
まだ読みきれていない児玉先生の本は多いが、もっとたくさん読んでみたくなってきた。
なぜテニスは練習しても上手くならないのか ―ジョコビッチや錦織圭は知っている
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